公開日 2023年03月01日
大会レポート
開会式
「集まっての大会を開催できるのは3年ぶり。作品を直に聞いて審査するのは、やっぱりいいなと今日会場に来てあらためて感じました。」井上浩実行委員長のあいさつで始まった最終審査会。116件の応募の中から、1次審査を通過した9作品が選ばれました。緊張した面持ちの発表者に「今日一日楽しんで、皆さんが作ったものを宣伝して、そして審査してもらえれば、いい一日になると思います。」と井上実行委員長。
▲井上 浩 実行委員長
続いて、経済産業省、総務省、文部科学省からの祝辞が紹介され、プログラミングを学び、日本の将来を担う才能ある若いみなさんへのエールが送られました。
その後、審査委員、スポンサー賞に続き、発表者が紹介されると、一人ひとり意気込みをポーズで示してくれました。
応募者によるプレゼンテーション
最優秀賞/永和賞
滝沢市立滝沢第二中学校 科学技術部 チーム「幽霊部員」さん(岩手県)
作品名「腐霊(ゾンビ)病棟」
廃病院が舞台のホラーゲーム。「テーマは、恐怖感、そしてホラー感。それを表現するため、ギミックをどう効果的に利用するかをよく考えて制作しました。さらに誰にも予想がつかないストーリー。そして恐怖感をあおるキャラクター作りにもこだわりました。」とプログラム担当の遠藤穂花さん。グラフィック担当の池田梨紗さんは「ホラーゲームということで、あまり明るい色を使っていません。ゾンビの姿勢を前のめりにしました。」と工夫した点を話してくれました。
審査員からは「一番の決め手は、ホラーの雰囲気が良く出ているところ。こういうのがやりたいという気持ちとそれを何とか実現しようと頑張り、実現できていることが大変評価に繋がった。」と栄えある最優秀賞を受賞。ソースコードが読みやすい点も評価され、スポンサー賞の永和賞も贈られました。
最優秀賞を受賞して、遠藤さんは「ゾンビ病棟の制作を通して、できていることが増えるとやりたいことが増える。やりたいことが増えて努力すると、またできるようになっていく。プログラミングって、やっぱり楽しい。みんなにも楽しさを知って欲しい。」とあふれんばかりにプログラミングへの想いを語ってくれました。
池田さんは「目標の最優秀賞をとれて、夢かと思うくらい本当に嬉しい。」と笑顔で話してくれました。
優秀賞/ピクシブ賞
木島 陽斗さん(島根県)
作品名「!DANMAKU!」
Ruby歴3か月の木島さん。銃器を操って、現れる敵を倒す弾幕シューティングゲームです。ランキング、オプションなど日本語と英語対応の機能が搭載されています。「現在のシーンクラスのインスタンス変数を利用して終了を検知したら、現在のシーンが保持している次のステージを読み込んで実行するようにした点は、自分なりに工夫できたのかなと感じています。」と木島さん。他にも、テンプレートとなるクラスを作って継承したり、コントローラーが使えるようにも工夫しました。
田中和明審査員から英語でもプレイできる理由を問われると「この大会は国際をうたっているので、なけなしの国際要素を入れました。」と木島さん。ユーモラスな返答は、会場の笑いを誘いました。
「プログラムのソースコードが非常に読みやすかった。機能が充実していて、盛りだくさんでレベルが高い。ゲームがかなり面白そうだが、それ以上にプレゼン、発表も面白かった。」とピクシブ賞も受賞。
優秀賞とのダブル受賞に木島さんは「自分でも満足できるくらい創意工夫したが、予想以上に高く評価してもらえたので嬉しいです。」と努力が認められた感激を話してくれました。
審査員特別賞/Matz賞
愛媛県立松山工業高等学校 大森 隼斗さん(愛媛県)
作品名「スライムバスター」
「誰でも簡単に爽快感を味わえるゲームを目指して作りました。」と大森さん。自分の拠点に近づいてくる敵のスライムを攻撃して倒していくゲームで、攻撃属性の木・水・炎のアイコンが入れ替わるところが特徴です。工夫した点について「1つ目はかわいいキャラクターや技エフェクトを作ったこと。2つ目はスプライトを用いた当たり判定の短縮化です。3スクリーンになるようにクラス内部の関数を指定して、ダメージ量をコントロールしています。」と数学の知識が役立ったことを明かしてくれました。
ゲームデザインとヌルヌル動くアニメーションの画面エフェクトが高く評価され、審査員特別賞を受賞。さらに、まつもと審査委員長から「ゲーム性が非常に面白かった。また三角関数を活用して、よく言われる〝三角関数を学んでどうなるの″という言葉に対する見事な反証になり良かった。」とMatz賞が贈られました。
最優秀賞を目指していた大森さん。「先ほどまで非常に悔しいと思っていたが、Matz賞をいただけてとてもありがたい。」と胸の内を話してくれました。
審査員特別賞
愛媛県立松山工業高等学校 藤枝 侑瑞樹さん(愛媛県)
作品名「演算シューティング」
シューティングをしながら、四則演算を行うゲームです。プレイヤーはその数式の真偽を正しく判断しながらステージを進み、ボスを倒します。ゲーム作成の理由を「私自身、暗算速度が遅く、それを改善できるゲームを作りたいと思ったのがきっかけです。」と藤枝さん。
引数や継承を使用してコードを短くした点や、多次元配列を用いたスコアの追加、入れ替え機能を追加して工夫しました。今後の課題は分かりやすいコードを書くことと、セーブ機能の実装で、更なる発展を目指しています。
弾幕系シューティングと計算を結びつけた独創性と、スコアをきちんと管理している点を高く評価され、審査員特別賞を受賞した藤枝さん。「この場に出場できて、また特別賞をいただけたのですごい嬉しいです。ありがとうございました。」と数ある作品の中から選ばれた喜びを語ってくれました。
審査員特別賞
愛媛県立松山工業高等学校 北原 颯人さん(愛媛県)
作品名「色遊び」
DXRubyのリファレンスを読んで、ブレンドという重なったところの色を変更できる関数に気づいた北原さん。「日常生活では色について詳しく知ることはあまりありませんが、ゲームをしながら色について少しでも分かればいいなと思いました。」と色を題材にしたゲームを作った理由を話してくれました。
色ブロックとゲートのRGBの値を取得して、それぞれの値を比較する点を工夫しています。ゲートを開閉する処理を作ることが一番大変だったそう。「キャラクターを動かしたい。いろんなギミックを作りたい。」とアクションゲームと色を合わせる為に思考を巡らせて、形になった作品です。
審査員は「色がゲームの基本になっていて独創性がある。バリエーションが展開できそうな気がするので、アイデアをうまく活かしてRubyを使ったゲームに取り組んで欲しい。」と期待を寄せました。北原さんは「今回大会でゲームの改善点などが分かったので、これからのプログラミングに活かしてゲームを作っていきたいです。」と意気込みを語ってくれました。
審査員特別賞
滝沢市立滝沢第二中学校 科学技術部 チーム「デコピン」さん(岩手県)
作品名「デコピン野郎」
このゲームの魅力は“悔しい”、“快感”です。考えた通りにプレイができて快感。ぎりぎりでクリアができず悔しいと、もう一度プレイがしたくなる仕組みを考えて、制作されました。ステージをクリアするごとに背景やブロックの配置、デコピンができる回数などが変わり、様々な展開を楽しみながらプレイできます。デコピンの反射が思ったように判定されず、原因を探るのに苦労したそうです。
審査員からの「背景の絵が面白い。オリジナルですか。」という質問に「オリジナルです。世界遺産をシンプルに遠近法を使って作成しました。」と工夫した点を話してくれました。
「プログラムをコードの中できちんと書かれていて、自由度が高いことを確認できた。全体としても良く出来ているのでさらに発展があると思う。これからも頑張って欲しい。」と審査員特別賞が贈られました。受賞後のコメントで喜びとともに、先生への感謝の気持ちが添えられたのが印象的でした。
最優秀賞
山田 直生さん(東京都)
作品名「StudentGuild」
過去に奨励賞の受賞経験を持つ山田さん。なぜ決勝まで行けなかったのかを反省した時に「実力不足とかけた時間が足りなかったのではないか。自分と一緒に開発できる仲間がいれば技術力や時間不足を解決できるのではないか。」と考えました。学校内で仲間を見つけるのは容易ではなく、オンラインでいろいろなサービスをまたぐのは面倒と感じた山田さん。便利に安全に使えるサービスを自分で作ることにし、このアプリの制作となりました。
アプリの特徴は、仲間を集める、仲間と協力する、情報発信する、使いやすいUIの4つ。なるべく説明を受けなくても分かりやすいデザインを心掛けました。
将来的には、今まで自分がやってきたプロジェクトをまとめて、他の人に見てもらえるポートフォリオ機能の追加やスマホアプリ化で、使いやすさの向上を目指しています。
表彰式では、いますぐにアプリを立ち上げても良いような完成度と称えられ「良いアプリを作っていただいてありがたい。実際にサービスを運用するとなると仲間が欲しくなると思うので、これからも頑張ってソフトウエアの開発を続けて欲しい。」と、エールが送られました。山田さんは「調べていると、当たり前のようにみんなが使っているところが分からず、足りないところがあると痛感した。これからも基礎からしっかりやっていきたい。」と学び続ける意思を示してくれました。
パーソルプロセス&テクノロジー賞/優秀賞
木村 有莉亜さん(東京都)
作品名「SDGsList」
より多くの人にSDGsについて知って欲しい、SDGs達成の為に日常生活の中でワンアクションを実行して欲しいという想いでアプリを作成した木村さん。ユーザーが途中であきらめずToDoリストを達成できるように、達成率に応じて絵の彩度を変え、プログレスバーを表示し可視化。リストには自分で描いたイラストも加えて、アプリのわかりやすさにこだわりました。「より多くの人にSDGsを知ってもらう目的を達成するために、ユーザーに親しみをもって欲しいという想いで作りました。」と木村さん。さらにシェア機能で、SDGSを意識していることをSNSに投稿して、アプリのユーザーを増やす工夫も取り入れました。
「多くの人に使ってもらいたいという想いと、それを実現する使いやすさ、見やすさがとても印象的でした。」とパーソルプロセス&テクノロジー賞を受賞。合わせて受賞した優秀賞では、「SDGsという社会的課題を取り扱った非常にいいプログラムで、実際の活動にも繋がる作品。」と高く評価されました。
木村さんは「プログラミングを通してや得意なことを通して、これからも社会や世界に自分の表現したいこと伝えたいことを発信できるような人になりたいです。」とありたい姿を力強く話してくれました。
ソニックガーデン賞/Matz賞/審査員特別賞
布川 のぞみさん(千葉県)
作品名「Startionary」
文房具を集めることが趣味の布川さん。アプリ作成の動機について「文房具の種類が多すぎて、どれを買ったらいいのかわからない。まだ学生で、お小遣いの範囲内で買うものなので、なるべく買い物には失敗したくないという悩みを解決するため」と話してくれました。
アプリの特徴は3つ。1つ目は、一目で評価がわかる星による五段階評価。。2つ目は、何を投稿して良いかわからないという人の為のレビューテンプレート。3つ目は中高生の主な使用デバイスであるスマートフォンに合わせたデザインです。「さらに機能を増やしていきたい。レビューを評価ごとに分類して表示させて見やすくしたい。」と引き続きアプリの進化を目指しています。
見事3賞の受賞に輝いたStartionary。ソニックガーデン賞では「自分のニーズからセルフプロデュースしてアプリを作るところが偉い。僕たちが仕事で作っているアプリに共通する部分があった。」と、予定されていた副賞の他に、オフィスへの招待を受けました。
「ソースコードは良い意味で標準的に作られていて、よく頑張っているのがわかりました。」と審査員特別賞を受賞。そして、ご自身も文房具が大好きというまつもと審査委員長からは「こういうレビューサイトが欲しい気持ちに共感。リアルなビジネスとしても大きな可能性を秘めている気がして、今後の可能性に期待する。」と、Matz賞が贈られました。
布川さんは「初めて自分で開発したウェブアプリでこのような賞をいただけてとても嬉しい。改善してもっといいアプリにしていきたいし、もっとプログラミングができるようになって、将来に繋げていきたい。」と目を輝かせながら話してくれました。
【講評・講演】
まつもとゆきひろ審査委員長
【講評】
「ここに来ている時点で選抜されている。そのことがまず皆さん素晴らしい。」と受賞者を称え、それぞれの作品ごとに講評がありました。そして「ここで満足ではなくて、これからを発展させていく、後輩に技術を伝授するなど、ここで止まらない継続的な発展を期待したい。」と締めくくりました。
【特別講演】テーマ「守破離」
武道、茶道などで使われる言葉【守破離】。基本を守る、基本から逸脱して自分の型を作っていく、そして基本から離れて新しいものを創造する、の三つの段階によって発展するということを表現した言葉です。プログラミングにもいろいろな段階があります。先人の知恵に沿って型を学ぶプログラミングの入門。いわゆる【守】の部分だが、現代では、ここはあまりしなくてもよいと思います。やっても世の中に新しいものを創り出していない。いろいろやってみることができるのが、失敗することも含めて、プログラミングの良いところ。このゲームをもっと楽しくするためには、どうしたら良いか。そのプログラミングの発見が【破】にあたります。
その後、自分のソフトウエアを創り、自分の流儀を出せると【離】。こうなると何もかも自分の思い通りにできます。プログラミングの楽しさはいろいろな側面がありますが、新しいものを創り出すこと、創造する楽しさと言ってもいい。
さらにその先があります。私が30年くらい前、Rubyを創り始めた時は一人でしたが、今や開発に携わっている人は何十人もいるんです。大勢でやると難しいこともありますが、たくさんの人達と協力することによって、一人では到達できないところに行ける気がします。ソフトウエア開発にはオープンソースソフトウエアのスタイルの文化があって、一人ではなく、みんなで創り込むことを推奨する文化、それはすごく楽しいし、すごくいいなと思います。一緒に創りたい仲間が現れて、その後、創ったソフトウエアがどんどん良いものになって発展していく、たくさんの人に使われるようになっていく。そういう社会的インパクトが出てくるようになった時、初めて達成感を味わえます。
みなさんはまだ若い。プログラミングを職業にするかしないかはともかく、楽しむことを継続していただけるといい。私自身の経験から言っても、プログラミングはみなさんの人生を豊かにしてくれるものだと思います。みなさんの味方であり、助けになると心から信じています。
閉会式
副実行委員長を務める吉田純夫より、若い発想や感性、情熱を非常に強く感じる高いレベルの大会が開催されたことに対し、全ての応募者と大会運営関係者、そして会場とオンラインの観覧者へ、心からの感謝が伝えられました。1年かけて準備された晴れ舞台は、幕を閉じました。